沖縄の民話

①『ネコとトラ』  那覇市で聴取された民話

「空手のネコ師匠とトラ」の話は、いじめた子らを見返してやると入門してきたトラが、メキメキ腕をあげ「もう自分より強い相手はいない、今日こそ師匠に勝って一番になってやる」といって猫師匠に勝負を挑んでいく物語。てっきり「柔よく剛を制す」「小柄なネコ師匠が巨大なトラを倒す」という爽快物語と思いきや意外な結末に。

ある日トラが師匠に向かって言った

「もう俺は先生より強いぞ、先生、俺と勝負してくれ」

〈いよいよきたか〉入門の時から薄々予感はしていたが、力技では圧倒的な差がある小さな師匠と巨大な弟子。しかしそれでもネコ師匠に迷いはなかった。技を学び強くなった弟子が、技で師匠を超えようとすることは、子どもが父親を超え精神的自立をはかろうとする心理と似て、ごく自然なことでもあった。師匠の決断は早かった。

『あちゃーなんみん んでぃ(明日波の上で)、すーぶしぃんじら(勝負しよう)」と、応じたネコ師匠だったが、トラがなんみんに着くと、いきなり海に突き出た松の枝に飛び移り『とー(かかてぃ)くーわ(さあ かかってこい)』というネコ師匠。思わぬ展開に、トラは、「バカな!松の枝に飛び移ったら二人とも崖から落ちて死ぬではないか」『卑怯な!』と言いながらもトラの腰は引け、足はすくんでしまっていた。怒りの収まらないトラは『どこにいようとお前の糞の臭いで、お前を見つけて食ってやる』と悔し紛れの捨て台詞を吐いて帰って行った。知恵の勝利だった。

「闘わずして勝つ!」これこそウチナー空手の極意。

でもこれってなんだか気弱ではないのか。しかし、これには別の見方があった。

勝つことしか眼中にないトラに「木登りの術だけは教えなかった」というのもネコ師匠の知恵だった。そこがまさにトラの弱点。弱点をつく技こそ秘技。本来秘技は出さない技。なんみんの神さまの前ゆえ初めて披露した技だった。

それもまた空手の極意かもしれない。そして何といっても最後のトラの捨て台詞を通し、トラの本意を聞けたことで、これでもう二度と闘わないですむ。

くわばらくわばらと、そーっと糞を隠すネコ師匠の行動は、本能的でもあったが、そこにはユーモアと同時に師匠の深い知恵が・・・「決して闘わない、心底身を守る」というウチナー空手の真髄があらわされていた。