自己紹介
那覇で育つ
昭和55年 広島大学医学部卒業
主な勤務先の病院
広島大学附属病院 精神科入局
名古屋大学附属病院 精神科入局
長浜赤十字病院 精神科
平成7年帰沖 玉木病院、田崎病院を経て
平成11年かなでクリニック 開業
名古屋大学付属病院では、主に、精神分析的精神療法を学ぶ
Ⅰ川の流れ、心の流れ。視点の変換。
那覇市内を流れる久茂地川のほとりに、わがクリニックはあります。しかし、この川を「流れのない川」という人も多い。川の水はよどみ、魚は群れ、パクパクと川面に口をつき出し、必死の呼吸。当初、川面をみると、澱んだ川の流れに少々ため息。しかし、視点を変えてみると、そう・・・ここは 昔海だった場所。母なる海(豊穣をもたらすニライカナイをかなたに抱く海)につながっている場所。その上に我がクリニックはあるともいえる。ある日、そう いう視点が思いついた時、自分自身の気持ちがスーッと軽くなることに気がついた。きっと上空には心地よい海風が・・・足下には、サンゴが・・・。そういう川のほとり・・この場所で、いかに患者のこころに流れを生み出せるか、そしてそれをいかに手伝っていけるか、これがこのクリニックの課題。 人は育った環境がそれぞれ違うように、同じストレスを受けても、悩みかたや症状の現れ方は十人十色、さまざまです。なかなか一人で解決できず、行き詰まっている状態の時こそ、新たな自己の発展のチャンスかもしれません。一人で悩まないで、お気軽にご相談ください。
Ⅱ神経症(パニック障害など)、うつ病、統合失調症など心の病の治療
当クリニックには、ストレスで心のゆとりをなくし、不安、焦燥、パニック発作などの症状を呈する方や、あるいは、頑張りすぎて後(過剰適応の後)、疲労感や、集中力低下、ゆううつ気分などを訴える方など、様々な方が来院されます。
特に最近は、パニック障害や、社会不安障害といった神経症圏の病気の方や、軽症うつ病の方が増えてきて、ストレス社会という現実が、如実にクリニックの外来の光景に、反映されている気がします。統合失調症の方も、昔よりは随分と軽症化してきています。こういう病気になると、不安や恐怖に加え、あせりが全面に出やすくなります。以下は、その主な病気の特徴と治療を、Q&A形式でまとめたものです。
Q「パニック障害」ってどんな病気?
A不安神経症の一部です。アメリカでは20年ほど前からパニック障害という病気がわかってきて、治療の方向性が見えてきています。患者は不安、動悸、息苦しさ、めまい、パニックなど突然の症状にびっくりして他の身体科を受診。色々検査を受けても、異常なしと言われて、困ってメンタルクリニックを受診される方が多いようです。幸いパニック障害には薬がよく効きます。特に、数年前に出たSSRIと いう薬はとても効果があります。人混みで倒れてしまわないか、バスや高速道路、飛行機など閉所空間で逃げられない場所に長くおれない、恐い、などの恐怖症 状が出現し、そういう場所を避けてしまいがちになるなど、回避症状も出たりします。早めの受診をおすすめします。早期治療が一番です。服薬しながら、乗り 越えていける病気です。
Q社会不安障害(SAD)ってどんな病気?
A人の注目を浴びる場面で自分の行動に不安を感じるだけでなく、恥ずかしさのあまり、次第にそういう注目を浴びる場面を避けるようになり、放っておくと日常生活にも支障をきたすようになる病気、それが社会不安障害と いう病気です。 例えば、権威のある人と面談をする時や、会議での発表、試験を受ける場面、電話の応対などで、「手が震えたり、顔が赤くなったりすると か、あるいは、息苦しくなったり、冷や汗をかいたり、吐き気がしたりする」などといった様々な症状が出たりするときは、社会不安障害という病気の可能性が 強いと考えていいでしょう。普通は、特定の状況で症状がおこるのが多いのですが、注目されるときに起こる上記の症状が、色んな場面に及んでくる時は、全般型不安障害といって、非全般型社会不安障害と区別されます。 しかし、幸いなことに、いずれも治療をすれば、かならず治ります。恥ずかしいと、長い間一人悩んでいて、受診をためらう人も多いのですが、社会不安障害は、心の病気で、薬物療法や行動療法がとても効果があります。治療としては他に、上記のような注目を浴びる場面を避けないで、前向きにトライしていく暴露療法というのがあります。SADは治る病気ですので、一人で悩まず早めの受診をおすすめします。
Q「うつ病」ってどんな病気?
Aうつ病は、最近では、“心の風邪“といわれるように、今の時代、5人に1人ぐらいの割合で見られる病気です。誰でもが、一生のうちに1回は経験する可能性がある、くらいの病気になってきています。WHOによると、2020年には、心臓病についで、うつ病が2番目に多い疾患になるであろうと予測さ れています。それぐらい多い疾患になってきています。気分が沈むとき、その原因が自分なりにわかるときは、まず友人などに相談してみるのも得策でしょう。 そして、その次にメンタルクリニック受診を検討されるのがいいかと思います。いくら考えても原因がはっきりしないが、最近おっくうで何か元気が出ない、ミ スが増えた、ゆううつ、眠りが浅い、などの症状がいくつかあらわれた時は、うつ病が疑われます。
うつ病は元々気分の波の病気です。そして、必ず治る病気もあります。しかし、うつ病を、ほっておくと、先が真っ暗に感じたりし、死を考えるまでになる可能性があり、この病気も早めの治療がとても大事です。
最近は、うつ病の研究もかなりすすんで、脳の神経細胞のシナプス間の伝達物質(セロトニンなど)の問題が、脳の中でおこっているということがわかってきています。うつ病の、脳のバテてしまった状態には、最近の抗うつ薬( SSRI ,SNRI )がとてもよく効きます。以前の三環系の抗うつ薬もよく効くのですが、便秘や喉の乾きなどだるさなど副作用が出やすかったりするので、その副作用の軽減が長らく待たれていました。 SSRI SNRI という薬は、そういった副作用も少なく、患者さんの身体の負担が軽くなっています。うつ病は、医師の指導の元、服薬と休養だけでも十分回復していく方も多いのです。身体の病気の治療と同じくうつ病も、早期発見、早期治療が大事になります。
うつ病になる方は、真面目すぎて、気持ちの切りかえが上手にできず、仕事を一人で抱え込み過ぎたり、気を遣いすぎて疲れてしまう傾向があります。
通院して、休養と服薬を続けていているうちに、回復していくのが実感できると思います。もちろん、本人と家族との呼吸合わせも大事で、仕事をもっておられる 方は、その職場の上司との呼吸も大事になります。理解者がまわりに増えることも、病気の改善にプラスに働きます。しかし、そんな中でも回復が遅々としてす すまない方もおられます。そういう時でも、実は、その遷延化している要因がかならずあります。うつ病が遷延化していても、その要因を診察の中で、患者と主 治医が一緒に話し合いながら、整理しつつ、これからの人生のことなど話し合っていくと次第に、問題の解決の道がみえてきます。そういう治療を目指して、当 クリニックでは日々診療をおこなっています。停滞した患者の心の流れが再び流れ出すと、何より、患者自身にゆとりがうまれ、これまで自分自身が拘ってきた 価値観に変化がみられたりし、うつ病をきっかけにして、人生がこれまで以上に豊かに感じられるようになる方も多いのです。
Q「統合失調症」ってどんな病気?
A統合失調症(精神分裂病)は、未だ原因がはっきりしない病気です。しかしおよそ100人 に1人ぐらいの割で発病する比較的多い病気です。その症状は、不眠、不安、恐怖に加え、自分のことを噂する声が聞こえたり、自分のことが周囲に漏れてい る、盗聴器が仕掛けられている、といった症状などがみられたりします。破瓜型の分裂病者は、自分自身のことがよくわからない上に、彼らとって、他人も訳が 分からない存在に感じられるため、世界に安心して過ごせなくなる。そういう事態に至った病と言えます。それ故、対人関係も困難になります。治療も、その時 そのときを大事にしながら、関係を築き上げていくよう心がけます。焦りが一番禁物です。少しずつ人が安心できる存在であることを感じてもらえるよう心配り しながらすすめていきます。他にも妄想型の分裂病の方もいます。いずれにせよ専門家の診察と治療がどうしても必要な病気です。発病初期は、休養を優先し、 睡眠の質を高め、患者の心にゆとりができるまで共に焦らず、こちらもじっくり構えるような治療になります。
最近新たに出た抗精神病薬は、効果もあり、副作 用も以前に比べかなり軽減できるようになってきています。患者と同居の家族も疲れがちのため、家族の精神衛生にも気を配る必要がありますが、当クリニック では時に応じて、地域の精神保健の担当者等との連携もこころがけて、治療をおこなっています。Ⅲストレス。精神療法。 物語の発見。
自分の内面のことになると、なかなか一人では分からない。一人で行き詰まっている状態の時、治療は、薬物療法の他に、精神療法も並行しておこなっていきます。
自分自身の課題は何か、自分の物語って一体何か。どこからきて・・これから先、どこへいこうとしているのか。まだみつからず途方にくれていても、診察の中で、治療者と二人で、色々話し合って治療をすすめていくうちに、不思議と、新たな視点の発見があり、そうして症状が改善していく。それが理想的な精神療法。
なぜなら多くの人が、本来自然治癒力をもっていて、自分の今抱えている問題が整理され、解決の糸口がみえだしてくると、自らが持つその自然治癒力が発揮されてくるからです。
それでも、苦しい症状から早く脱したい、今すぐ回答がほしいという人もいます。しかし実際の診療場面では、現実的には、そう簡単にいきません。その人にはその人なりの、これまでの生きた歴史があり、そのことを理解せずして、治療は進んでいかないのです。残念ながら、カウンセリング(心理士による治療)や精神療法といった治療は、魔法のように悩みがパッと解決するといった回答を与える、という類のものではありません。同じ訴えが長く続いてもいいのです。患者にとって大事なことこそ、何度でも繰り返し話題になるのですから、話していただくほうがいいのです。精神療法とは、そういうふうに二人で話し合いながら、問題の整理やこころの整理をすすめていく治療法です。